測量
●マヤの建造物の特徴 | ||
マヤの遺跡は、複数の建造物より構成されている。建造物には人間が生活した住居や、儀式を行なった神殿等がありその大きさも様々である。例えば、ティカル遺跡の4号神殿は約70mの高さを有する。しかしながらいずれの場合もまずはじめに基壇を作りその上に上部構造を建造する。従って、建造物が放棄された後、長い年月がたち上部構造が崩れても基壇の部分は残り、地上でマウンド状の形で発見される。 基壇は、底面が四角形を呈し上面も平坦な四角形であるが、底面より面積が小さい。側面は階段状になっているが、全面が階段の場合と、中央部だけが階段の場合と2通りある。 上部構造は、基壇の上に築かれる部屋であり、神殿等はすべて石で作られるが、一般の住居などは土で作られる。また、一般に大きい建造物は、複数の部屋を持つが、小さい建造物は1部屋である。 |
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図1 ↓ |
ノムル遺跡における遺跡地図 | |
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●測量、地図作成の方法 | |
測量は、日本と同様に平板、トランシット、レベル、などの測量機材と使って行なわれる(最近は、トータルステーションなどのコンピュータと連動した機材も使われる)。測量の目的は、遺跡の立地状況、建造物の配置、高さ等を調べ遺跡地図を作成する。地図は作成技法の違いにより1)コンタ法、2)レクティフィケーション法に分類される。 | |
1)コンタ法 コンタ法は、日本の古墳の墳丘測量と同じ原理でコンタを使って各マウンドを地図に描く。こ の方法はマウンドが土のみからできていて、基壇の形が不明な場合使用されるが、マヤ文化 圏の遺跡地図作成ではあまり使用されない。 |
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2)レクティフィケーション(Rectification) 法 レクティフィケーション法は、マヤ考古学では一般的なもので、ハンド・コンパスを使った精度 の低いスケッチ・マップとトランシット等を使った精度の高い地図がある。レクティフィケーション 法の特徴は、地上で確認されているマウンドを二重の四角形で地図に書き込むことである。四 角形の外側の線は、建造物の基壇の底辺に一致するように設定し、内側の線はその建造物 が面しているプラサ(広場)からの高さを示すように設定している。つまり、外側の線と内側の 線の間の長さをはかり、縮尺に合わせて計算するとその建造物の高さが地図から知ることが できるようになっている。例えば、外側の四角形と内側の四角形の差が小さければ小さいほど 建造物の高さは低く、逆に大きければ大きいほど建造物の高さは高いことになる。 |
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さて、このレクティフィケーション法はどのような長所がありまた短所があるのだろうか?図1は、同一の遺跡をコンタ法と使って作成した地図とレクティフィケーション法を使って作成した地図を対比したものである。コンタ法では建造物の現状、つまり建造物が崩壊した状況を描いているだけであり、表面観察によって得られる様々な情報を地図に盛り込むには限界がある。一方、レクティフィケーション法では、崩壊した建造物を詳細に観察して、階段の有無、建造物と建造物の結合関係等の情報を地図に書き込み、建造物が崩壊する以前の形を表面観察から復元する。従って、このような地図は一種の解釈図であり考古学の訓練を受けた人でないと作成するのは難しい。 また、表現上の問題点としては、建造物の高さの情報を地図に入れることにより上部構造の床面積の情報が省かれる。床面積の情報は、当時の建築様式、一軒の家屋に住んだ人間の数等を知る上では不可欠のものである。建造物の高さと、床面積の両方の情報をいかにして一つの地図に書き込むかというのが今後の課題である。 |
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レクティフィケーション法で描かれる地図は、解釈図であることはすでに述べたが、全く主観的に描いているわけではなく、多くの作図の技法は発掘成果に基づいている。例えば、建造物の基壇を四角で描くという方法は、建造物の全面発掘によって得られた基壇の建築方法の成果を取り入れて導入されたものである。また、プラサと呼ばれる広場の大きさや形もこの技法で描くことによりかなり正確に示すことが可能となった。マヤ考古学においては、日本の古墳の墳丘測量とは異なり、いくら細かくコンタをいれてマウンドを測量したとしても崩壊前の建造物の様相を知ることは難しい。従って、発掘によって得られた情報を加味し、詳細な表面観察によって描かれるレクティフィケーション法の地図では崩壊前の建造物の配置、大きさ、建築技法等をかなり正確に復元することが可能である。 | |
●マヤ考古学における遺跡地図の意義 | ||
マヤ考古学において上述した方法で作成された地図は、どのような研究に使用されるのだろうか?遺跡地図は、考古学の最も基本的な資料であり様々な分野の研究に利用される。特に、セツルメント・パターン(遺跡の空間分析)の研究には欠かすことのできないデータである。 セツルメント・パターンの研究は、アメリカの考古学者G.ウィリーによって研究が開始された。彼はセツルメント・パターンを「人間が自然環境の中で行なった、自分の住居や共同体で使用する公共建造物の配置パターン」と定義し、そのパターンを分析することによりその社会が持っていた文化を知ることができると考えた(Willey 1953)。セツルメントパターンの研究対象はその観察対象の広さから 1)一建造物における遺構の分析 2)一共同体(あるいは一遺跡)における各建造物の性格分析 3)複数の共同体間(あるいは複数の遺跡間)の関係の分析(例えば、一ページの地図に見ら れるような一つの盆地に分布する遺跡の関係の分析等) に分類できる。 考古学における遺跡地図は、それぞれの考古学の分野でその意味も異なるが、少なくともマヤ考古学においては、重要な情報を提供している。一般に考古学調査というと発掘調査を想像するが、遺跡の分布調査(踏査)、遺跡地図の作成・分析も発掘調査に劣らず重要な調査である。 |
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